ある情シスとベンダーのやりとり

「私はベンダーコントロールが得意です」

という情シスの方にたまに出会います。このフレーズを聞くといつも不安に襲われるのですが、その不安はいつも的中してしまいます。

先日、ベンダーとの会議にその情シスの方と同席しました。

「2週間は遅い!1週間でやってください!」
「ミスが多すぎ!緊張感がありませんよ!」
「次回ミスをしたら、責任者を連れてきてください」

と強い口調でベンダーを牽制します。

ベンダーは「死んだ魚の目」になっています。横で聞いている田村も気まずくなりました。

田村はスポットで参加しただけですが、それ以降、ベンダーからの相談が田村に集中するようになってしまいます。

その後、適切な相談ルートに戻すまで、時間がかかりました…。

成果を引き出すために逆算する

弊社では、ベンダーコントロールは4段階あると考えます。

<ベンダーとの関係性>
レベル0:ベンダーにカモにされる
レベル1:ベンダーと敵対しながらも要求をゴリ押しする
レベル2:ベンダーから最大限の成果を搾り取る
レベル3:ベンダーから積極的な提案と行動を引き出す

「レベル0」は、マネジメントを放棄している状態です。ベンダーに丸投げ状態で、判断・評価もせず、事務的に窓口となっているだけです。

「レベル1」は、自社の要求を後から出そうが、全て通します。「仕様変更を強引に通す」「後から納品物を増やす」「ベンダーからの妥協案を認めない」など。ベンダーは不満を抱えながら、渋々とやります。

「レベル2」は、計画性をもってベンダーからの成果を引き出します。定められた成果物、スケジュールを管理し、遅れやミスが出ると、原因と対策を追求します。監視の目が厳しいため、ベンダーは手が抜けません。

情シス/IT部門は、まずはこの「レベル2」が求められます。ITの知識やシステム開発のノウハウが必要で、ユーザー部門には出来ないからです。

一方で、情シス/IT部門のチェックはいつも完璧とはいきません。多くの業務を抱え、1つのベンダーに構っていられないからです。そもそもの要求ミスもあるでしょう。

では、こちらが気づいていないチェック漏れや要求ミスに対応するにはどうしたらよいでしょうか?

ベンダーに助けてもらえばいいのです。

しかし「レベル2」以下だと、こちらの漏れやミスをわざわざベンダーは教えてくれません。教えると自分たちの作業が増えるだけだからです。そもそも、いつも「労働搾取する監視員」に対して、助けようという感情が湧くのでしょうか。

そこで「レベル3」を考えます。

ベンダーとの信頼関係を構築するアプローチです。お互いが協力し合い、プロジェクト成功に向けてベンダーを前向きな姿勢にします。

そのためには、どうすればよいでしょうか?

これはベンダーに「指摘しない」ということではありません。こちらで気づいた指摘は全てするべきです。ベンダーも自分たちのミスに対しては、素直に対処するものです。

ただ、必要以上に感情的になる必要はないのです。「始末書を書け」「責任者をつれてこい」はよっぽどの時にとっておきます(その時も、自分たちではなく上のクラスの役割です)。

通常は「次から気を付けてください」と笑顔でいいのです。ベンダーのミスも遡れば「自社のミス」ということも往々にしてあります。ベンダーを責める前に自分たちに非がないかを振り返ることも大切です。

他にも「早急な対応に感謝します」「ご提案ありがとうございます、早急に検討します」など、前向きなフィードバックを積極的に行いましょう。

また、課題があれば素直にベンダーに相談することです。ベンダーから信頼を得たいなら、まずはこちらから信頼を行動で示すべきです。

ベンダーも人間なので、頑張りを認められたり、褒められたり、頼られたりすると、さらに貢献したいと思うようになります。ベンダーならではの「専門的な提案」もあるでしょう。お互いの案を持ち寄って、素晴らしい「第三の案」が生まれることもあります。

書き出してみれば当たり前のことですが、つい発注者という立場になると、「お金を払っているのだから、やってくれて当たり前」となりがちです。

いろいろなベンダーに発注する立場の情シス/IT部門だからこそ、陥りやすい罠ともいえます。

ベンダーはパートナー

近年、技術や専門性をもったベンダーと協業する機会は増えています。

情シス/IT部門に超強力な「スーパースター」がいれば「レベル2」で強力な統制を敷く方がうまくいくかもしれません。

そうでないなら「レベル3」でベンダーの協力を引き出す方が得策です。

これは「性善説」とかの話ではなく、本当にベンダーから成果を引き出したいなら、計算してでも「レベル3」を演じるべきです。

貴社の情報システム部門/IT部門とベンダーの関係性はどのレベルにありますか?真のパートナーとして、プロジェクト成功に向けて、お互いの強みを引き出せていますでしょうか?