超上流工程の最初のハードル

「To-Beの検討は難しいですね」

ある業務部門のプロジェクトマネージャが、ため息交じりに話されました。

どのプロジェクトでも、As-Is(現状の姿)の整理までは、比較的スムーズに進みます。現行業務をそのまま「見える化」するだけなので、ヒアリングした分だけ成果物が出来ていきます。

一方で、To-Be(あるべき姿)は、変更コンセプトをまとめ、改革・改善アイディアの検討を積み重ね、それを形にしていくものです。

As-Isとは異なり、正解のない作業です。保守勢力の強い抵抗にあったり、部門間で意見が対立したり、そもそも今やるべきなのかと蒸し返されたり、様々な問題が発生します。

「あるべき姿」と言葉では簡単ですが、いざ実施してみると難しいものです。

このプロジェクトでも、To-Beで進捗が止まってしまったそうです。

「根本的な見直しができていないのではないか?」
「改善検討が不十分ではないか?」

このような不安がプロジェクトマネージャに襲い掛かります。

気になったので確認してみると「業務整理の段階なので、情シスはまだ呼んでいない」とのことでした。

情シスにとってディスカッションは武器となる

ベンダーを選定する前の「超上流工程」では、業務検討が大きな割合を占めます。

当然ながら業務部門が主役です。業務メンバーが、現場の課題やアイディアを出し、To-Beを考えていきます。

こうした業務領域の検討に、情シスはどう貢献していけば良いのでしょうか?

情シスは、前回コラムで書いたように、「ファシリテーション」するしかありません。その中でも、超上流工程に有効な方法があります。

「ディスカッションの主導」です。

情シスがディスカッションを主導し、業務部門はネタ出しに集中する。そうすれば、プロジェクトとして効果的な役割分担ができます。

また、それ以上に大きな意味として「初期に情シスがプロジェクトの主導権を握ることができる」ということです。

ディスカッションで重要なのは、幅広く、多くの意見を出してもらうことです。メンバーの発言力に関係なく、関係者から意見を引き出すことです。そこには、中立の立場である情シスが「うってつけ」です。

「何でもいいのでアイディアを出してください」では、なかなか出てきません。テーマが広すぎると答えにくいし、意見が発散しすぎて収集つかなくなります。そこでメンバーが意見を出しやすいように工夫していきます。

① ディスカッションのテーマを絞る
② 呼び水のキーワードを準備しておく

以下に例を挙げてみます。

———————–
【テーマ】業務の効率化
【説明】日々の業務でムダだと感じること、効率化したい作業、苦労が報われていない作業などを洗い出してください
【キーワード】転記、集計、帳票の統一、項目の見直し、エクセル管理、申請・承認、未使用機能の活用、シンプル化、属人化、報告するためだけの資料、そもそも論…
【記入欄】(1人につき3つ以上のアイディアを出してください)
———————–

この紙を参加者に配り、5分ほど時間を設けて書き込んでもらいます。そして順番に発表していき、情シスがプロジェクターに移しながらメモをとっていきます。

とりわけ田村は、キーワードの捻出を重視しています。ここにバリエーションを持たせることで、いろいろな角度から意見を引き出せるからです。

毎回、ディスカッションのテーマとキーワードを変えていけば、いくらでも応用が利きます。慣れれば、そこまで難しくありません。

この場でメモした内容を後日「施策一覧」のエクセルにまとめて、情シスが進捗管理をしていきます。こうすることで、プロジェクトは情シスを中心に動き始めていきます。

できる情シスは超上流工程から攻める

プロジェクトは最初が肝心です。情シスが超上流工程からスタートダッシュできれば、その後が楽になります。

なにより、業務部門とのディスカッションは非常に楽しいです。現場の苦労を解決するためのアイディアを出したり、会社に大きく影響を及ぼす施策を検討したり、その場にいるだけで多くの刺激を受けます。

悩みを聞いたり、お互いの意見をぶつけ合ったりと、非常に人間臭く、だからこそ普通よりも強い人間関係を構築することもできます。

情シスは、To-Be検討から戦略的にポジショニングしていくべきです。その一つが「ディスカッションの主導」です。

それが「業務の下請け」から「業務のパートナー」への分岐点となります。

貴社の情シスは、超上流工程から踏み込んでいますか?
その時、ディスカッションの中心に情シスが座っていますでしょうか?