現場職人の拒絶反応

「チームメンバー全員で話し合って、変革不要との結論になりました」

ある業務変革プロジェクトの検討会で、現場のキーパーソンAさんが静かに口を開きました。

前回までの検討会で多くの課題が挙がり、「変革は必須」と誰もが思っていたところ、まさかの「不要論」主張でした。

情シスメンバーは予想外の展開に顔を見合わせました。

よく見ると、Aさん以外の業務メンバーは、気まずそうに視線を落としています。

「前回までに多くの課題が出ましたが、それは解決しなくていいのですか?」

と聞くと、Aさんは急に怒り出しました。「変革できない理由」を強めの口調で説明されます。

Aさんの説明は誠意をもって聞きましたが、こちらも誠意をもって説明しました。

「働き方改革関連法で今までのように残業はできなくなります。そのために業務を標準化し、分業し、自動化しないといけません」

「働き方改革は、今期の事業計画の最優先事項です」

「まず今まで通りではいけないという点は、同意いただけますでしょうか?」

Aさんの上司でもある業務部長も出席していましたが、この様子を黙って見守っていました。

部外者の情シスだからできること

実は、業務部長から「Aさんが変革のボトルネック」「Aさん以外は変革を望んでいる」というのは事前に伺っていました。

この状況で、情シスはどのように対応すれば良いのでしょうか?

本来であれば、この業務部長がAさんを含めて部内の統制をとればよいだけの話です。しかし、それが難しいから情シスに頼ってきていると考えられます。

今はAさんなくして現場は回らず、そのAさんの機嫌を損ねると、周囲にも悪影響が出てきます。連携が十分に行われず、Aさん待ちで残業する人も出てきます。

部長とAさんの関係が悪くなると、部全体の空気も悪くなってしまいます。

一方で情シスは、当然ながら部外者です。一時的に恨まれても困りません(あくまで一時的にですが)。

これは、情シスにとって「チャンス」と捉えるべきです。

普通の人には面倒くさいだけの話でも、情シスにはありがたい状況なのです。

一般的に、現場変革を行おうとすると「職人」の抵抗は避けられません。特に「非効率でアナログな作業を完璧にこなしている職人」は激しく抵抗してきます。

本人的には工夫を重ね、効率化し、芸術の域まで昇華させた自身の「聖域」を否定されるからです。

しかし、情シスにとっては「聖域」こそ、踏み込むべき領域。なぜなら、最も変革の効果が高いからです。

一時的に対立したとしても、恨まれたとしても、正しい方向に導き、最後は協力関係を築いていくことが求められます。

これは部外者ならではの役割とも言えます。これを「部の問題」「部長の責任」と線引きするようでは、情シスは下請けのままです。

業務部長は最重要ターゲット

「あのように言ってくれて助かった」

会議が終わり、解散した後に業務部長から話しかけられました。自分では言いにくいことを代弁してくれた、とのこと。

情シスは、業務部長との信頼関係は重要です。

いくら現場と仲良くしても、業務部長の意向にそぐわなければ、プロジェクト自体が存続できません。

業務部長とは定期的に個別で話す場を持ち、意向をきちんと把握しておく必要があります。

こうした積み重ねが、将来のプロジェクトでも情シスが指名されることに繋がります。

貴社のIT部門/情報システム部門は、「聖域」に踏み込んでいますでしょうか?
そして、業務部長との信頼関係を構築できていますでしょうか?